エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは
エネルギーマネジメントシステム(EMS:Energy Management System)とは、電力や熱などのエネルギーを「無駄なく、安定して、効率的に使う」ための仕組みです。発電設備、蓄電池、需要設備などを総合的に管理し、エネルギーの流れを最適化する役割を担っています。
近年では、再生可能エネルギーの導入拡大により、発電量が天候によって大きく変動するようになりました。そのため、エネルギーをどれだけ使うのかを事前に予測し、状況に応じて運用を調整することが、これまで以上に重要になっています。
EMSの中核となる技術の一つが「需要予測」です。将来の電力需要をできるだけ正確に把握することで、発電計画の立案や設備運用の効率化、エネルギーコストの削減につなげることができます。

エネルギーマネジメントシステムを活用した地域マイクログリッド
A Concept of a Regional Microgrid with EMS
はじめに:なぜ需要予測が重要なのか
私たちの社会では、電力は日常生活や産業活動を支える欠かせない基盤です。電気は大量に蓄えることが難しいため、「必要な量を、必要なときに、ちょうどよく供給する」ことが求められます。そのためには、将来の電力需要をできるだけ正確に予測することが重要です。
しかし、電力需要は気温や天候、曜日、人々の行動など、さまざまな要因によって変化します。こうした不確実な要素を考慮しながら予測を行うために、本講座ではベイズ推論という考え方を用いた需要予測の研究に取り組んでいます。
ベイズ推論とは?
ベイズ推論とは、「これまでの経験や知識」と「新しく得られたデータ」を組み合わせて、考え方を更新していく方法です。
例えば、朝に空を見て曇っていれば「今日は雨が降るかもしれない」と考えます。その後、天気予報で「降水確率80%」と聞けば、雨が降る可能性はさらに高いと判断するでしょう。このように、新しい情報を得るたびに判断を少しずつ修正していく考え方が、ベイズ推論の基本的な考え方です。
ベイズ推論の特徴は、
- 過去の経験を無駄にしないこと
- 新しい情報を柔軟に取り入れられること
- 結果の「確からしさ」も同時に評価できること
にあります。
線形回帰モデルとは?
線形回帰モデルは、「ある要因が変化すると、結果がどのように変わるか」を表すための、最も基本的な統計モデルの一つです。
例えば、
- 気温が高くなると電力需要は増えるのか
- 気温が1℃上昇すると、需要はどれくらい増えるのか
といった関係を、直線で表現します。
このようなモデルは仕組みが分かりやすく、結果の解釈もしやすいため、需要予測の基礎として広く用いられています。
ベイズ線形回帰モデルの特徴
ベイズ線形回帰モデルは、線形回帰モデルにベイズ推論の考え方を組み合わせたものです。通常の線形回帰では、「この条件なら需要は〇〇」と一つの答えが得られます。一方、ベイズ線形回帰では、
- 予測される需要の値
- その予測がどの程度不確かか
を同時に推定することができます。
これにより、「予測値」だけでなく、「どのくらい自信を持って言える予測なのか」も分かるようになります。この点は、実際の運用や意思決定において非常に重要です。
なぜベイズ推論は需要予測に向いているのか
電力需要は、季節や社会状況によって変化します。例えば、
- 夏は気温が高くなるほど需要の変動が大きくなる
- 冬は寒波の影響で予測が難しくなる
といった特徴があります。
ベイズ推論を用いることで、
- 過去の傾向を活かしつつ
- 最新の観測データを重視し
- 状況の変化に応じて予測を更新する
ことが可能になります。そのため、変化の大きい需要予測に適した手法だといえます。
ベイズ推論の線形回帰モデルの需要予測への応用
本講座では、過去の電力需要データや気温などの情報を用いて、ベイズ線形回帰モデルによる需要予測の研究を行っています。
予測の流れは次のとおりです。
- 過去の需要データや気象データをもとに、需要の傾向を把握します。
- その傾向を「これまでの知識」としてモデルに反映します。
- 新しい観測データが得られるたびに、予測を更新します。
- 将来の需要と、その不確かさを推定します。
この方法により、状況に応じて柔軟に変化する需要予測を実現しています。
社会への貢献
ベイズ推論を用いた需要予測は、
- 電力の安定供給
- 再生可能エネルギーの有効活用
- 電力設備の効率的な運用
- 脱炭素社会の実現
といった課題に貢献することが期待されています。
本講座では、統計学や機械学習の手法を活用しながら、実社会に役立つ需要予測技術の研究を進めています。
また、この手法を再生可能エネルギーの発電量の予測にも拡張する研究も進めています。